株式市場で個人投資家による投機的な動きが強まっている。米国では個人マネーがゲーム感覚で一部の銘柄に集中、1日で株価が2~4倍に上昇する企業が続出する。インターネット証券では接続障害も相次ぐなど、前例のない混乱にホワイトハウスや証券取引所も警戒を強め始めた。
今回の混乱を象徴する銘柄が、米ゲーム小売りチェーンのゲームストップだ。株価は26日に前日比93%上昇し、27日にはさらに同135%高となった。27日の売買代金は約300億ドル(約3兆円)と、アップル(200億ドル)をもしのぐ。
ネット販売の普及で、実店舗が中心のゲームストップは2021年1月期も赤字見通しだ。成長期待で買われているわけではない。逆に株価が割高とみたヘッジファンドが空売りをしかけているところに、レディットといったSNS(交流サイト)上でつながった個人投資家が20年に急拡大した株取引アプリのロビンフッドなどを使い共闘して買いを入れている。
SNSでつながる個人の間には、巨額の利益を上げるファンドを市民の「敵」とみなす動きがみられる。ゲームストップではヘッジファンドのメルビン・キャピタルがSNSの標的となった。ゲームストップ株を空売りしているとの情報が飛び交い、個人がコールオプションという金融派生商品も駆使して一斉に買い注文を入れた。株安を見込んでいた投資家は締め上げられるように買い戻しを迫られ、メルビンも巨額の損失を負ったとの情報もある。
次の標的を探すかのように、27日は映画館のAMCエンターテインメント・ホールディングスが4倍に、アパレルのエクスプレスが3倍に急騰した。
UBSウェルス・マネジメントの調査では20年の米国株式に占める個人の売買シェアは19.5%と19年比で4.6㌽、10年比で9.4㌽上昇している。ロビンフッド経由での短期売買は未成年者の取引も多く、最近は経済対策による現金給付が新たな原資になっているとの指摘も多い。ロビンフッドは顧客に十分にリスクやコストを説明していないとして金融当局から罰金も受けている。
乱高下への警戒も広がる。ホワイトハウスのサキ報道官は27日、「動きを注視している」と語った。米証券取引委員会(SEC)は同日、「オプションや株式市場でみられる乱高下を監視している」との声明を公表。公正で秩序ある市場を維持するために関係機関と連携して対応する方針を示した。ナスダックのアデナ・フリードマン最高経営責任者(CEO)はCNBCに出演し、「SNSを注視しており、異常な値動きがあれば取引停止もあり得る」と述べた。
個人投資家の動きが活発なのは米国以外も同様だ。個人投資家の比率が高い中国では本土の投資家が香港株に向かっている。「相互取引」を通じた香港株への資金流入は28日まで19営業日連続で100億香港㌦(約1350億円)を超える。中国ネットサービスの騰訊控股(テンセント)や出前アプリの美団など、中国での知名度が高く本土市場に上場していない銘柄が上位に並ぶ。
日本でもネットを通じた短期売買が活発化している。松井証券では月間取引回数が100回を超えた顧客数が、コロナ前と比べて約3割増えた。資金は新規株式公開(IPO)銘柄やバイオベンチャー株に向かう。
個人投資家対ヘッジファンドの様相もあるが、大きな損失を出したヘッジファンドが保有資産の売却に追い込まれる可能性もある。「幅広い資産の下落につながり、金融市場の混乱を招きかねない」(野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミスト)との懸念もでている。
(ニューヨーク=後藤達也、吉田圭織、上海=張勇祥、和田大蔵)
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2021-01-28 10:30:00Z
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