[ロンドン 19日 ロイター] - サウジアラビアの石油施設攻撃で世界的な原油需給ひっ迫が起こるのを同国が本当に防げるかどうかが分かるのは、数週間先になる──。石油トレーダーや専門家はこうした見方をしている。足元ではサウジが保有する原油在庫が供給不足の穴埋め役を果たし、施設の被害状況もまだベールに覆われているからだ。
14日の2つの石油施設への攻撃により、サウジはおよそ日量570万バレルの原油が生産できなくなった。同国政府は、原油生産量は2─3週間で通常の水準、つまり日量約1000万バレルに戻るとの見通しを示すとともに、施設を復旧するまでは国内外に保有する在庫で市場の需要に応じ続けると約束している。
ただトレーダーや専門家は攻撃されたアブカイクとクライスの施設が速やかに元通りになるかどうか懐疑的で、サウジの在庫データに不透明な部分があることから、果たして市場の需給を安定させ続けられるかも明確ではない。
ある欧州系商社の幹部は「10月到着予定の原油の多くは既に積み出されて洋上にあるので、供給の穴が表面化するのは10月終盤になるだろう。市場では既に買いが殺到しているが、現物の確保を急ぐ動きが出てくるのはこれからだ」と語った。
では先を争って現物を押さえる動きがいつ出てくるかは、サウジが持つ在庫の規模と、その在庫で顧客にどれだけの期間、完全に供給し続けられるか次第になる。
共同石油統計イニシアチブ(JODI)によると、サウジが国内外に保有する原油在庫は最新データである7月分が800万バレル減の1億8000万バレルだった。
しかしベテランの石油トレーダーの1人は、JODIのデータが正確かどうかは「大いに不明」で、衛星写真を用いて在庫を分析する企業のデータを参考にすると、地上に保管されている原油の規模はJODIのデータより小さいように見えると付け加えた。
このトレーダーは、国営石油会社サウジアラムコの子会社ATCが石油製品購入に動いていることも、在庫水準が十分ではないとの疑いを強める要因だとみている。
<需給ひっ迫>
同トレーダーは「(サウジが)過去20年で数百億ドルを投じて地下貯蔵施設を建設したとのうわさが出回っていた。だがそれならどうしてATCが石油製品を買っているのか」と指摘した。
複数の関係者の話では、アラムコはアラブ首長国連邦(UAE)で少なくとも12万バレルの軽油を購入した。この動きが、石油施設への攻撃と因果関係があるかどうかは分かっていない。
ブラック・ゴールド・インベスターズ創業者で石油業界の経験が長いゲーリー・ロス氏によると、石油施設の復旧スケジュールに関しサウジが「過度に楽観的」になっていると確信しない方が難しい。同氏は「需給ひっ迫局面が訪れつつある」と警告している。
アラムコのナセル最高経営責任者(CEO)は、同社が国内に6000万バレル余りの原油在庫を保有していると述べた。海外保有分は明らかにしていないが、沖縄やロッテルダムなどには同社の貯蔵施設がある。
それでもこうした在庫が一体どのぐらいのペースで減っているか疑問は残ったままだ。Karrosの推計では、今月15日から16日までだけでサウジの国内在庫は1000万バレル近く目減りした。
一部の大口顧客は既に調達先を切り替えている。中国石油化工(シノペック)のトレーディング部門は今週、米国から少なくとも4隻の原油タンカーをチャーターした。
<油種変更>
サウジが「量」の面で顧客への供給を維持できたとしても、同一の品種を提供するのに苦戦する可能性を示唆する材料がいくつか出てきている。これは軽質油ないし重質油といった特定の品種を扱うことが多い製油業者にとって大事な問題になる。
攻撃されたアブカイクの施設は、「アラビアンライト」や「アラビアンエクストラライト」といった油種の重要な処理拠点だった。
こうした中でアラムコは、少なくともアジアの6つの製油業者に対して、10月中も約束した量を供給すると伝えたものの、うち2社は油種の変更を申し渡された。
2人の関係者は、インドのリライアンス・インダストリーズ<RELI.NS>は攻撃があった直前にアラビアンライトを積み出す予定だったのだが、代わりに「アラビアンヘビー」を入手していると述べた。
この関係者の1人によると、韓国や日本などの製油業者にも油種変更要請があったという。
主にエジプトのシディ・ケリルから出荷されるアラビアンライトを利用する欧州とトルコの製油業者は最もリスクが高い。事業に詳しい業界関係者は、少なくとも欧州の大手製油業者1社はまだサウジから10月の積み出し日程を聞かされていないと話した。
アラムコのある関係者は17日、アブカイクの施設が既に日量200万バレルの処理を行っていると明かした。攻撃前の処理量は490万バレルだった。
それでもアラムコは、攻撃を受けた2つの施設の被害程度に関して詳しい情報を公表していない。攻撃による火災を目撃した人の話や、衛星写真などを見ると、果たして早期復旧ができるのか懸念が増すばかりだ。
(Julia Payne、Dmitry Zhdannikov記者)
https://news.livedoor.com/article/detail/17116233/
2019-09-21 02:55:00Z
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