3月19日、茨城県ひたちなか市の半導体大手ルネサスエレクトロニクスの那珂工場で火災が発生した。
同社は主に自動車向けの半導体を扱っていたが、今回の火事によって生産が停止。元の生産水準に戻すには1カ月はかかると見られている。現在、自動車やスマホなどで半導体の需要は高く、供給が追いついていないのが実態で、日本の産業界に衝撃が走ったのは間違いない。
その重要度を示すように、政府もこの件についてコメントした。ロイター通信によれば、加藤勝信官房長官は「半導体は産業のコメともいわれ、経済社会を支える極めて重要な基盤の部品」と述べた上で、「代替装置の調達支援など経済産業省でしっかり対応していくとした。自動車向け半導体が世界的に供給不足となる中で、サプライチェーンの強靭(きょうじん)化などさらなる対策強化を検討する考えを示した」と報じている。
この火災のニュースを受け、ある界隈がざわついた。経済安全保障の関係者たちである。経済安全保障とは、経済と安全保障が一緒になって国家の脅威になっていることを指す。米国が中国企業を安全保障の脅威として排除しているのが、その最たる例である。
今回のルネサスの火災については、現時点で分かっている情報を見ていきながら、経済安保の観点から、この火災事件からどんなことが学べるのか、何を日本のビジネス界が気をつけるべきか考察したい。
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ルネサス火災の顛末
今回のルネサスエレクトロニクスの火災の顛末(てんまつ)について、関係者の話をまとめるとこうなる。
3月19日の夜中の2時27分に、主力製品を生産する生産棟で、半導体にめっきを施す装置から火災が発生した。白い煙が上がっているのを従業員が発見して消防に通報したのだという。
今のところはまだ調査中ではあるとの前提で、関係者はこう言う。
「警察が来て、現場検証は19日の午前中に事件性はないとして3時間ほどで終了した。生産過程で流す電流に異常が起き、過電流になった。その装置に燃えやすいシリコン樹脂が使われており、発火しやすくなっていたこともある。その部分を今後は変えないといけないと考えています」
そして、放火など可能性は低いと見られていると、この関係者は語る。「ただ、なぜ過電流になったのかは、まだ原因が分かっていない。さらに言うと、本来なら火災時にはブレーカーが落ちることになっていたのに、それも作動しなかった」
今回のニュースを見て、まず思い浮かんだのは、ある経済安全保障に携わる政府の関係者が以前筆者に語っていた話だ。「今の時代、先端技術をもつ工場などはかなり警戒しておく必要がありますよ。以前、とある国の企業から技術提供を持ちかけられた日本のテクノロジー系会社がその提案を断ったんですが、そのすぐ後に工場が何者かに放火されたことがあった。もちろん、その企業が関与しているかどうかは分かりません」
この話の真偽は不明だし、ルネサスの火事が放火だったと言うつもりは毛頭ない。だがかなり立場のある人物なので、そんな話もあったのだろうと考えられる。
今回のルネサスのケースでいうと、日本の技術力を求めている人たちがいて、さらには、その技術力が世界の競争の中で脅威に思われているということである。こうした認識を持つべきだという文脈で、この関係者はそう語ったのではないだろうか。
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「謎」が残る
現在、半導体の分野で日本などと競争をしているのは中国である。最近明らかになった2021〜25年の5カ年計画でも「習近平(シー・ジンピン)国家主席は昨年9月の会議で『我々は(半導体など)弱点の技術問題に直面しており、基礎分野の遅れが根っこにある』」(日本経済新聞)と語ったという。半導体分野は中国のテクノロジー戦略にとって最重要の一つで、25年に中国が技術大国になると定めた「中国製造2025」でも、今回の5カ年計画でも力を入れていくと取り上げられている。
とはいえ、なかなか半導体の生産技術が追いつかないなかで、中国も米国からの制裁措置で半導体確保に苦しんでいる状況がある。
中国との関係性から、今回の火災は何か普通ではない動きはなかったのか。関係者に水を向けると「(ルネサスは)中国とも取引を行なっていて、工場の生産が止まると中国企業も打撃を受ける。中国がそんな損害を受けることを分かっていて放火などをしてくるとは考えにくい」と言う。
もちろん、ライバル国で、米国や同盟国などといろいろな分野で対立しているとはいえ、なんでもかんでも中国の責任にするのはよくないが、ただ国際情勢や経済問題などを鑑みると、中国への疑念がわき上がっても正直、不思議ではない。それほど、中国は世界的に台頭し、存在感を増しているということだ。
もっとも、放火の可能性はなさそうだが、だからといって安心できるわけではない。というのも、すでに述べた通り、今のところ今回の火災には、まだ「謎」が残っているからだ。それは「なぜ過電流になったのか」というのと、「なぜ火災時に落ちるはずのブレーカーが作動しなかったのか」ということだ。
これについては今後、じっくりと調査が進められることになるだろう。だが、サイバーセキュリティ関係者なら、まず疑うのはそれらがデジタルで制御されていなかったのか、ということだ。先端技術を扱う工場であれば、制御装置で生産ラインなどはコントロールされていることが多いからだ。
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インフラを狙った攻撃
ここからは完全に想像の世界になるが、この工場に「サイバー攻撃」が仕掛けられ、制御装置などがマルウェア(不正なプログラム)に感染し、攻撃者による遠隔操作で生産ラインを過電流にされてしまうケースは、まったく考えられない話ではない。少なくとも、起きうるシナリオとして想定すべきである。
事実、過去にはこうした工場の中央制御装置などがサイバー攻撃で不正に操作された事件が起きている。有名なのが、10年に発覚したオリンピック・ゲームス作戦だ。この作戦には「スタックスネット」と呼ばれるマルウェアが使われ、核開発を進めていたイランのナタンズ核燃料施設を破壊した。
スタックネットが施設内部でウラン濃縮作業を行う遠心分離機の動作を管理する独シーメンス社製の中央制御装置に感染。遠心分離機の管理をしていた職員らに一切感づかれることなく、多くの機械を不正に操作し、回転数に異常を起こして、爆破させたことが判明している。
さらにウクライナでも15年の年末に、西部にある電力会社の電力制御管理のシステムが何者かにサーバー攻撃によって乗っ取られた。そして次々と電力供給がストップされ、ウクライナでは22万人以上が真冬のクリスマスを前にして電力が使えなくなる事態に陥った。
それ以外にも、こうしたインフラを狙った攻撃は頻繁に報告されている。
こうしたシナリオは、ずいぶん前から、もはや映画のなかのフィクションではなくなっている。とはいえ、こんなシナリオは起きないに越したことがないのだが、現実にはそんな顛末も想定しなければいけない時代になっているのである。
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日本の技術は狙われている
とにかく、日本の技術は狙われている。大企業だけでなく、それら企業と取引をしながら技術を提供している小さな工場なども例外ではない。いわゆるサプライチェーンのなかの比較的セキュリティが緩いと見られる企業や工場などが狙われるのである。特に中小企業などでは、予算がなかったり、セキュリティのしっかりした新たなシステムに乗り換えたりするのに抵抗があったりする。使い慣れた機器を手放したくないし、新しい機器を導入すると互換性などの問題もでてくるので、そんなことに時間と金を使いたくないという声も聞こえてきそうだ。
それはごもっともだが、サイバー攻撃などを受けたときの損害のほうが大きくなる可能性があることを知っておくべきだろう。もちろん会社の維持や追加投資などが必要で、現実的に見て、経済安全保障の面で警戒されている中国といった国外からの投資など、好条件の申し出に応じざるを得ない状況も分かる。
だが経済安全保障が声高に叫ばれる時代になった。長い目で見ると企業にも国にも打撃になる可能性がある。やはり慎重になる必要があるだろう。
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2021-03-24 23:00:00Z
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