バルミューダは16日、同社初となるAndroidスマートフォン「BALMUDA Phone(バルミューダフォン)」を発表した。同社代表取締役社長の寺尾玄氏は発表会の中で、同製品に関する思いなどを語った。
スタートは自宅から
発表会の冒頭で、バルミューダの歴史について語り始めた寺尾氏。「バルミューダが創業したのは2003年。武蔵野市の自宅で、社員は私ひとり。忘れもしない初年度の売上高は600万円だった」と振り返る。
創業から18年間あまりが経過した今、バルミューダの売上高は3000倍に。2020年末には東証マザーズ市場への上場を果たし、寺尾氏は「まさか自分が上場企業の社長になるとは思わなかった」と感慨深げな様子を見せた。
とはいえ、ここまでの道のりは決して平坦なものではなかった。米リーマンショックのあおりを受けるかたちで倒産危機に陥った2009年、季節商品の在庫を抱えて債務超過となった2014年……。
たび重なる危機を乗り越え、バルミューダが2015年に発売したトースターは大ヒット商品に。その後も商品ラインアップを拡充し、バルミューダは「もはや家電メーカーと呼ばれる存在になった」(寺尾氏)。
“一番やりたかったこと”の実現へ
では、今回バルミューダがスマートフォンを手がけた理由は一体どこに? それは、寺尾氏の原体験にあった。
バルミューダを創業する前、20代のほぼすべてをミュージシャンという夢のために費やした同氏。「ポケットには1000円あればいいほうで、700円でハッピー、300円だと心もとない。そんな日々を送りながら、必死でロックスターになろうとしていた」と当時を振り返る。
そんな日々の中で寺尾氏は、パソコン黎明期のシリコンバレーに関する書籍を読んで刺激を受ける。
ロックスターという夢を諦めた同氏が、「夢を諦めたが人生が終わったわけではない。科学技術と自分のクリエイティビティを紐付けてみよう」という思いで立ち上げたのがバルミューダだった。
ノートパソコンの冷却スタンドから始まったバルミューダのものづくりは、前述のように今や多岐にわたるものとなった。
製品ラインアップを拡充しながら、さまざまな経営危機を乗り越えてきた寺尾氏は、2020年の正月にある思いを抱いたという。
同氏は「(2020年の正月に)初めて『この会社はしばらく潰れないだろう』と感じた。そこで自分が一番やりたかったことを振り返って『パソコン』が思い浮かんだが、すでにパソコンは手のひらサイズになっていた」と語り、「BALMUDA Phone」開発の経緯を振り返った。
スマートフォンに対する寺尾氏の思い
寺尾氏には、経営者としての気持ちや事業展開としての話とは別に、スマートフォンを作る動機が大きく2つあるという。
その1つ目として、同氏は“選択の自由”という表現を出し、「今の世の中にあるスマートフォンは、画一的になってしまっている印象。人類が総出で使っている道具なのに、種類が用意されていない。資本主義経済の中では、何かを買おうとするときにいくつかの選択肢から選べるが、スマートフォンの世界にはそれがない」と語った。
寺尾氏が2つ目の動機として紹介したのは「画面サイズ」。「スマートフォンが出たころは3インチ台で、今や6インチを超えている。毎年のように画面が大きくなってきた」と語り、「すっきりと、より良い体験ができるスマートフォン」として「BALMUDA Phone」を披露した。
“コンパクトでエレガント”なコンセプト
「BALMUDA Phone」は4.9インチのフルHDディスプレイを備えており、カラーリングはブラックとホワイトの2種類。寺尾氏いわく、「私は絶対にブラックを買うだろうと思っていたが、正直迷うくらいホワイトもできがいい」。
バルミューダが同製品を開発するにあたり、最初にしたことがサイズの検討だった。
4.5インチ~5.5インチまで、0.1インチ刻みでモック(模型)を作成したところ、寺尾氏が「最もちょうどいい」と感じたのが4.8インチ。ただし、開発を続ける中で部品が入らず、やむなく4.9インチになったという。
また、「BALMUDA Phone」の個性を際立たせているのが、そのデザインだ。「ディスプレイ部分を含めてどこにも直線がない」と寺尾氏が語る流線形のデザインは、毎日のように手に取るときの持ちやすさを突き詰めた結果。
デザイン作業には1年半もの期間が費やされ、「わがまま言いたい放題のデザインだったが、量産設計を担った京セラさんとさまざまなディスカッションを重ねながら、苦労の末に実現した」(寺尾氏)。
端末の質感にもこだわりが垣間見える。バルミューダが「BALMUDA Phone」で目指したのは「河原に落ちているような石」。
皮革やデニム製品のように、使えば使うほど味わい深くなる体験を実現すべく、特殊な仕上げが施されている。この仕上げについては、特許も出願中だという。
ソフトウェアに目を移すと、「BALMUDA Phone」にはバルミューダ独自の基本アプリが詰め込まれている。
直感的な操作がセールスポイントのスケジューラやメモ、料理を美味しそうに撮るためのカメラ……さらに、アラーム音や着信音には、寺尾氏がミュージシャン仲間と作った曲も収録されている。同氏は「映画館や電車の中でも怒られないような、素敵な音を目指した」と語り、そのこだわりをうかがわせた。
寺尾氏は、「スマートフォンは、非常に個人的な道具だと思う。それなのに、ほかの人と区別のつかない道具を使っている我々は、まるで校庭に整列している生徒のようではないか。きちんと並べと言われると飛び出したくなるのが我々で、そこで作ったのが『BALMUDA Phone』」と語り、「BALMUDA Phone」の紹介を締めくくった。
ソフトバンクとのパートナーシップ秘話
「BALMUDA Phone」はSIMフリーモデルに加え、国内キャリアではソフトバンクが独占販売する。発表会には同社常務執行役員の菅野圭吾氏も駆けつけた。
寺尾氏によれば、パートナーシップに関してソフトバンクとの話を始めた当初から、相性の良さを感じていたとのこと。同氏は「(菅野氏のチームと)初めて会って話したとき、『もう決まったかもしれない』と正直思った」と振り返る。
また、今回の「BALMUDA Phone」は、4Gモデルとしてリリースされる予定だったという。「設計もある程度進んでいた段階で、(ソフトバンクから)『絶対に5Gにしてください』とアドバイスがあり、春に発売する計画が後ろ倒しになった。結果的にはとても良いアドバイスをいただけた」と寺尾氏は明かした。
新ブランドは“ロックミュージック”
「BALMUDA Phone」は、バルミューダが立ち上げた新ブランド「BALMUDA Technologies(バルミューダ テクノロジーズ)」の第1弾として発表された。
寺尾氏は同ブランドについて、「バルミューダでは、どちらかと言えばポップソングを歌ってきた。でも、世界有数の企業がしのぎを削るIT機器の世界に対して、ただのポップソングでは切り込めない。そこで新たに作ったのがBALMUDA Technologiesで、ロックミュージックとして少しうるさく存在をアピールする」と、ミュージシャンらしい表現で紹介する。
そのうえで、「ジャンルは異なるかもしれないが、『卓越した創意工夫と最良の科学技術で新しい体験価値を生み出し、人々の役に立つ』という思いは両ブランドに共通している。次の新商品も楽しみにしていただきたい」と語り、今後への意欲をアピールした。
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2021-11-16 13:35:22Z
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