政府は27日、原燃料費や人件費の上昇を踏まえ、下請けなど中小企業が価格転嫁しやすくする対策をまとめた。公正取引委員会などが転嫁拒否が疑われる3業種を毎年指定し、2022年から重点的に立ち入り調査する。資源高などから企業物価は高い伸びだが、消費者物価の上昇は鈍い。原材料高による利益圧迫のしわ寄せが中小企業に偏らないようにする。
同日、首相官邸で会議を開き、対策パッケージをまとめた。岸田文雄首相は会議で「中小企業が適切に価格転嫁を行い、適正な利益を得られるよう環境整備を行う」と述べた。転嫁により、賃上げ原資を確保してもらいたいとの狙いが政府にはある。
会議で毎年1~3月を新たに「集中取組期間」とすると決めた。下請けが匿名で大企業の違反行為を情報提供できるサイトを新設。価格転嫁の拒否が疑われる3業種への集中的な立ち入り調査を始める。違反行為がみつかれば指導・勧告する。
3業種は毎年、状況に応じて決める。公取委が20年度に下請法違反で措置した件数は8111件で最多だった。業種別では製造業が最も多く、卸売・小売業、情報通信業が続く。こうした「買いたたき」の問題などが多く指摘される業界を中心に調査するとみられる。
下請法の適用対象とならない取引でも、価格転嫁の拒否が独占禁止法の「優越的地位の乱用」に該当すると公取委が明確にし、調査対象を21年度内に追加する。これまでは荷主と物流業者との取引だけを調査していた。
下請け企業との共存共栄を目指す「パートナーシップ構築宣言」を公表した企業に補助金の採択審査で加点する制度も拡充する。
低成長、物価上昇の鈍さが転嫁進まない背景に
日本国内で価格転嫁が進まない背景には、経済成長率の低さと物価上昇率の鈍さがある。日本の11月の企業物価指数の上昇率は前年同月比9%と41年ぶりの高さだったが、消費者物価指数の上昇率は0.6%の上昇にとどまる。米国の6.8%、ユーロ圏の4.9%に比べて大幅に低い。インフレが定着しなければ価格転嫁の本格的な浸透には遠い。
バブル後の景気低迷などから日本は1990年代後半に消費者物価指数の上昇率がマイナスになりデフレが定着。日本企業は原材料高でも小売価格の見直しは最小限に抑え、企業努力などの生産性上昇で吸収してきた。
消費者にとってはインフレに直面しないため「お得感」があるものの、その分、下請けを担う中小企業は厳しい取引条件を突きつけられやすい。国内需要が弱く、企業部門が人手不足の状況でも賃金が上がりにくい構造が定着し、家計の所得が伸び悩む。
新型コロナウイルス禍からの経済正常化のプロセスでは、モノや人手の不足から米国、欧州では高い物価上昇率となっている。デフレ体質が染みついていない経済は供給不足が価格上昇に結びつきやすい。日本の場合は値上げが進むのは食料品など一部にとどまる。
物価が上がりにくい中、価格転嫁が難しい中小企業の経営環境は厳しさが増している。政府は資金繰りの苦しい中小企業を補助金などで支援している。価格転嫁が進めば、中小企業の収益が改善したり、賃金の上昇につながったりする可能性があり、国の財源をより前向きな中小対策に振り向けやすくなる。
(マクロ経済エディター 松尾洋平、金子冴月)
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